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超3極管接続
Ver.X
EL34 pp
ステレオ
パワーアンプ

アンプは負荷側も情報源 使用部品について
EL34と超3極管接続 シャシーの加工
超3結V 配線について
本機のアンプ回路 調整方法
本機の電源回路 特性と音質

アンプは負荷側も情報源

本機を含めて一般的なパワーアンプは,スピーカーが定電圧ドライブを前提に作られているため、低い出力インピーダンスによって入力電圧と相似形の電圧をスピーカーに与えることをします。

この場合パワーアンプの出力電圧を決定するに必要な情報源は、当たり前ですが入力側にあります。

一方の出力電流は負荷側のスピー力ーの特性によって変化し一定でないことから、出力電流を決定するに重要な情報源は負荷側にあるといえます。

そこで負荷側からの情報に対応する部分を考えると、無帰還アンプなら出力段のみで、またNFBアンブでも電流を送り出す能力があるのは出力段だけで、かつ、その能力が足りないと内輪の信号が歪んでしまい、これが外部に漏れたりします。

いずれにしても出力段の能力や素性が重要であり、出力素子に何を使い、出力段をどうするかで、抵抗負荷の特性に差がなくてもスピーカーを通した音に違いが出て、パワーアンブの音質を決定付ける大きな要因になることは間違いありません。

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EL34と超3極管接続

本機はEL34に対する1つの解釈を表現したものです。

幾多の銘球が存在する中で、現在最も多く賞用されている代表的な出力管EL34を使うことは、超3極管接続(以下超3結と略す)のスタート時点からの願望でした。

しかし真空管の長い歴史の上に立つ球と、付け焼き刃の回路とでは、釣り合いが取れるわけがなく、顧みると、EL34を最高の形で使いたいために、超3結のバージョンを次々と展開してきました。

もしも無造作にEL34を使っていたら、超3結はバージョン1で終わっていたかも知れません。
或いは強引にEL34を捩じ伏せる手段に出ていたら、まったく別方向へ行っていたはずです。
謙虚にEL34に仕えて教えを得たことで、超3結は次第に熟れ、アクが抜けEL34の域まで到達することができたのだと思います。

超3結Vの意味は超3結第5のバージョンであり、念願を果たしたVサインでもあります。

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超3結V

超3結Vは図1に示す超3結バージョン4を基に、図2に示すように初段と出力段の間に反転増幅回路を入れ、出力管をプレートフォロワーとした回路です。

[図1] 超3結バージョン4(PDF) [図2] 超3結Vの基本回路(PDF)
zu1.gif (4134 バイト) zu2.gif (7076 バイト)

図3はプッシュプル回路として、位相反転後の信号を出力管へ上下交差して与えることで超3結Vとした方式で、名付けて超3結VX。

[図3] 超3結VX(PDF)
zu3.gif (11332 バイト)

B級動作では特別な回路を使わない限り、出力の変化に応じて出力管プレート直流電圧が変動することは免れず、この変動が帰還ループによって初段に伝達されますが、上下出力管のプレート直流電圧変動分は等しく同相であるため初段差動回路でキャンセルされます。

逆説的に、仮に直流電圧変動分を増幅してしまうと、初段のプレート電圧が直流的に大きく変化し、カップリングコンデンサーに長周期の充放電を生じ、これによって出力管の第1グリッド電圧が変動してクロスオーバー歪みを生じたり、逆に過大電流となったりします。
ちょうどこうした問題を従来の超3結が抱えていて、超3結Vの登場がなければB級プッシュプル回路に超3結を採用することは不可能でした。

しかし基本回路のままでは、初段の電源電圧を出力管のプレート電圧よりも高くしなければならず、出力管を最大限有効に使うためには、出力管よりも2倍以上高い最大プレート電圧の電圧増幅管が初段に必要で、さらに前置増幅なしでは、初段管のμに非現実的な高い値が要求されます。

そこで、ここに超3結バージョン3の手法を取り入れて、図4のように出力管のプレートと初段管の間に帰還用の3極管を追加しました。

[図4] 超3結VX改(PDF)
zu4.gif (14085 バイト)

入力から出力管のプレートまでの電圧増幅度Apは、初段管と帰還管の電圧増幅率をそれぞれμ1、μ2とすると、Ap=μ1(1+μ2)となり、中程度のμの球が使えます。
さらに、帰還管力ソードの信号電圧ekは,出力管プレートの信号電圧をepとすると、ek=ep/(1+μ2)となるので初段の動作電圧は低くてもよく、前述の間題が一挙に解決できます。
ところが電圧帰還率もekと同様に減少しているので、オープンループゲインを高めないと特性が悪くなります。

この実験回路を図5に示します。

[図5] 超3結VX実験回路(PDF)
zu5.gif (23500 バイト)


回路をシンプルにするため、初段の力スコード回路を5極管に置き換えてありますが、基本的には図4と同じです。
初段のゲインを上げようと、負荷抵抗を高くしたり高gm管に換えてみたりしましたが、際立った特性の改善はありませんでした。

そこで再び図2の超3結Vに戻ることになりますが、初段と出力段の間にドライバー段を入れ、ゲインを稼ぐと同時に出力段を強力にドライブすることにしました。
動作上はシングルでも構わなくなりましたが、プッシュプルとすることでドライバー段を差動回路とし、直結化できるメリットがあります。
なによりEL34はB級プッシュプル動作で用いてこそ本領が発揮されます。

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本機のアンプ回路

前述の過程を経て図6に示す本機の回路となりました。

[図6] 本機の回路(PDF)

zu6.gif (44269 バイト)

ここに使われている2段直結作動回路はゲインの高い直流増幅器であるため、初段管が原因でドライバー管のプレート電圧が安定しないトラブルを発生します。
始めは図5からの延長で初段管にEL86を使用していましたが、直流安定性が悪く、ドライバー管のプレート電圧が絶えず変動するため、V1a,V1bを1対の双3極管としました。

このV1として高gmでノイズが少ない6DJ8の採用を検討しましたが、電源を入れなおすと直流バランスが崩れて、ドライバー段のプレート電圧が以前とは異なる値に落ち着く現象があって採用を断念しました。
このような現象は球のヒーター構造に起因するらしく、12AU7を用いたことにより安定な動作が得られました。

V2にも12AU7を用い、選別して程度の良い方をV1に使いました。

V4はそのプレートを出力管のプレー卜に接続し、出力管と同じプレート電圧で動作させるために、高耐圧な電圧増幅管が求められます。
理想はラックス6240G(最大プレート電圧800V)ですが、現在の市場にはないので、入手の容易な12BH7A(最大プレート電圧450V)を使いました。

ドライバー段のV5にV4と同じ12BH7Aを用いるこで、歪みが相殺されて歪み率特性が桁違いに良くなりました。

出力管V6、V7のEL34は最大出力50W程度を目標に、図7の動作例に従いました。

[図7] EL34 B級PP動作例(PDF)

Ebb

Eb

Rg2

RL

EC1

Esig

Ib

Ib sig

Ic2

Ic2 sig

Po

KF

(V)

(V)

(kΩ)

(kΩ)

(V)

(Vrms)

(mA)

(mA)

(mA)

(mA)

(W)

(%)

425

400

1

3.4

-38

27

30×2

120×2

4.4×2

25×2

55

5

zu7.gif (26972 バイト)

パワーアップを図って共通第2グリッド抵抗を無闇に小さくすると、大パワー時に第2グリッドが赤熱して球の寿命が縮まり、結局はパワーが出なくなるので、1kΩは守るべきです。

この共通第2グリッド抵抗は、V6、V7のプッシュプルバランスを整える効果があるようで、コンデンサーで第2グリッドを交流的に接地した場合は歪み率が増加します。
しかし第2グリッドを交流的にまったく接地しない場合には、最大出力付近でオッシロ波形に微小発振が認められました。
原因は第2グリッドから第1グリッドへ、電極問容量を介して行われる高周波的な帰還ではないかと考えて、小容量のコンデンサーで第2グリッドを接地したところ、発振波形を消すことができました。

方形波の出力波形でリンギングが出たため、入力にハイカットフィルターを入れて、アンプの応答限界を上回る高周波が入力されないようにしてあります。

初段差動回路の定電流源にV3として6AU6を用い、信号系をすべて真空管で構築しました。

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本機の電源回路

電源トランスにタンゴMS-450Dを用いました。

電源はアース電位を基準に、地下1階、地上2階の3層構造となっています。
図8に基本構成を、図9に実際の回路を示します。

[図8] 電源の構成(PDF)
zu8.gif (8563 バイト)
[図9] 電源回路(PDF)

地下1階に当たる-Bは、V3の定電流回路とV4のカソード側の負電源で、電圧変動には比較的鈍感です。

1階の+B1は、2階をアース電位から持ち上げて支える電源で超3結のループに入るため、ノイズがあってはなりません。
また+B1を分圧して、V4、V6、V7のバイアス電圧に用いています。
従って+B1には、バイアス回路の電圧分割抵抗と、-Bを通る電流だけが流れます。

-Bと +B1にはAC70Vを、 +90Vと -90Vに整流して各々の電源としました。
特に+B1の平滑には2200μFの大容量コンデンサーを用いて、リップル分を完全に取り除いてあります。

2階の+B2は主に出力段へ電力を供給する電源で、出力管の激しく変化する電流はこの階しか通らないため、この電源のチョークコイル以降をL、Rの2系統に分割して、チャンネル・セパレーションを高めました。

+B3は初段とドライバー段の電源で、+B2からデカップリング回路を介して得ています。

ヒーター回路は、電源トランスの3つあるヒータ一巻線の内2つを、L、R各々にEL34とV5の12BH7Aで使用し、カソード耐圧を考慮して+B1の電圧をヒーターに掛けました。
残り1つのヒータ一巻線で、他の球と後述するタイマー・リレー回路を賄い、抵抗分割した中点をアースしてハムを減らしました。

電源投入時に出力管を過電流で痛めることがないように、タイマー・リレーで約30秒のスタンバイ期間を置いて、+B2を立ち上げるようにしました。

特に出力管のカップリング・コンデンサーがチャージ・アップする最中は、出力管の第1グリッド電圧が正方向へ振れるため、スタンバイ期間内にカップリング・コンデンサーを充電完了するように回路的な工夫をしてあります。

スタンバイ中はりレー接点がNC側にあるため、+B3に電圧が掛かりカップリング・コンデンサーが充電されます。
この時に、+B3から+B2に電圧が加わらないように、ダイオードD6、D7で阻止しています。
また、スタンバイ中にV4のプレート電流が流れ始めるため、+B2電圧が下降して電解コンデンサーを逆極性に充電しないように、D5で出力管のヒーター電源を整流して+B2に低い電圧を加えてあります。

タイマー・リレーの回路はヒーター電源の電圧で動作するようにトランジスターで作りました。
電源投入からリレーがターンオンするまでのスタンバイ時間Tは、CT、RTの時定数で調整でき、およそT(sec)=CT(μF)・RT(MΩ)となります。
パイロットランプのLEDをこの回路に組み入れ、スタンバイからオペレーションへの切り替わりで発光輝度が上がるようにしました。

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使用部品について

出力トランスにタンゴXE-60-3.5を用いました。
これに合わせて電源トランスも、受注生産品で多少割高になりますが、同じ色調の品名の末尾に Hが付くタイブを使いました。

真空管はどれもポピュラーな品種ですから容易に入手でき、良質なものをセレクトできる余地があります。
12AU7は外部誘導や機械的振動に強くハムの少ない球を探した中で、現時点では12AU7の高信頼管の6189Wを用いています。
EL34は必ずペア組品を使います。メー力ーは形状の良さと信頼感でフィリップスを選択しました。
12BH7Aは使い慣れているGE製です。

抵抗の定格電力は消費電力の2倍以上としてますが、差動回路のプ レート負荷抵抗は調整不備などでプレート電流が極端なアンバランス状態になると過熱するので、最悪を想定するなら更に2倍の定格電力とすべきですが、形状が大き いほど誘導を受け易くなり、部品配置が苦しくなります。

その他特記するほどの部品は使用していません。部品リストを表1に示します。

品名

数量

購入先

真空管

PHILIPS EL34 ペア

2

ケンオーディオ

SYLVANIA 6189W

4

富士商会

GE 12BH7A

4

ケンオーディオ

RCA 6AU6

2

富士商会

ダイオード

東芝 1S2711

7

オテック

日本インター 10DF2

3

オテック

東芝 1S1588

1

藤商電子

新電元 S1VB20

1

アルプス無線パーツ

トランジスター

東芝 2SC2655 Y

1

オテック

東芝 2SA1015 GR

1

オテック

電源トランス

タンゴ MS-450D H

1

ケンオーディオ

出力トランス

タンゴ XE-60-3.5

2

ケンオーディオ

チョークコイル

タンゴ TC-10-130W

2

ケンオーディオ

リレー

松下 HC2-H--DC6V

1

アルプス無線パーツ

LED(赤)付スイッチ

ミヤマ DS-850

1

アルプス無線パーツ

ヒューズ

4A

1

アルプス無線パーツ

ヒューズホルダー

サトーパーツ

1

アルプス無線パーツ

真空管ソケット

CINCH モールド US

4

富士商会

CINCH モールド MT9P

8

富士商会

CINCH モールド MT7P

2

富士商会

RCAピンジャック

  

2

サウンドパーツ

出力ターミナル

  

4

サウンドパーツ

ラグ板

1L6P

2

アルプス無線パーツ

1L2P

3

アルプス無線パーツ

基板

サンハヤト ICB-96G

1

アルプス無線パーツ

線材

LCOFC #20

適宜

三栄無線

LCOFC #18

適宜

三栄無線

シールド線 PCOCC #28

適宜

三栄無線

ACコード

15A 125V プラグ付 2m

1

アルプス無線パーツ

コードブッシュ

サトーパーツ BU-2

1

アルプス無線パーツ

皿小ネジ

ISO 3×10

38

林友ホームセンター

シャシー

鈴蘭堂 SL-400

1

ケンオーディオ

シャシー脚

アダプター付

4

三栄無線

品名

数量

購入先

コンデンサー

エルナー 500V 100μF×2

5

若松通商

エルナー 100V 2200μF

1

若松通商

エルナー 100V 220μF

1

若松通商

エルナー 100V 100μF

2

若松通商

エルナー 100V 47μF

2

若松通商

エルナー 50V 100μF

2

若松通商

ルビコン 16V 1000μF

1

アルプス無線パーツ

ERO MKP1845 630V 0.22μF

4

若松通商

NTK デップマイカ 500V 1000pF

2

若松通商

NTK デップマイカ 500V 20pF

2

若松通商

シーメンス MKH 100V 4.7μF

1

アルプス無線パーツ

酸化金属皮膜
抵抗

5W 1kΩ

2

アルプス無線パーツ

3W 10kΩ

2

アルプス無線パーツ

2W 15kΩ

4

アルプス無線パーツ

2W 3.3kΩ

2

アルプス無線パーツ

2W 100Ω

1

アルプス無線パーツ

2W 1Ω

4

アルプス無線パーツ

1W 220kΩ

4

アルプス無線パーツ

1W 47kΩ

4

アルプス無線パーツ

1W 10kΩ

2

アルプス無線パーツ

1W 4.7kΩ

2

アルプス無線パーツ

1W 470Ω

1

アルプス無線パーツ

1W 100Ω

1

アルプス無線パーツ

1W 47Ω

2

アルプス無線パーツ

炭素皮膜抵抗

1/4W 6.8MΩ

1

アルプス無線パーツ

1/4W 470kΩ

6

アルプス無線パーツ

1/4W 36kΩ

36

アルプス無線パーツ

1/4W 27kΩ

27

アルプス無線パーツ

1/4W 10kΩ

3

アルプス無線パーツ

1/4W 1kΩ

1

アルプス無線パーツ

1/4W 510Ω

2

アルプス無線パーツ

半固定抵抗器

RJC 06PK 1kΩ

2

アルプス無線パーツ

RJC 06PK 5kΩ

8

アルプス無線パーツ

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シャシーの加工

本機は超3結Vを形でアピールするため、V字パターンを基調とした斬新で個性的なデザインに挑戦してみました。
トランスを45°傾けてシャシーの横幅一杯に並べた理由は、真空管とブロックコンデンサーとの間を熱遮蔽するためです。
電源トランスを中央に配し、左右に翼を広げるように 出力トランスとチョークコイルを置き、後方にできた5つの3角形のスぺ一スにブロツクコンデンサーを立てました。
出力管は両端の通気の良い場所に配置し、その他の球は配線の流れに合わせて、かつ相互千渉のないように、さらに造形的な面から見ていて飽きの来ないように平行直角を避け、それぞれの球の視覚的中心を結ぶラインがゆるやかな曲線を描くように配置しました。
電源スイッチの取り付けも全体のイメージに添って 45°頃けました。

デザインの盛りつけに使ったシャ シー、鈴蘭堂 SL-400は、底板を取り付けていないと、持ち上げる時に重量に剛性が負けて、対角方向のねじれ を生じます。
またゴム脚は、取り付け位置が奥まっていて、見た目の安定感に欠けるため、取り付け位置を外側に寄せると共に、三栄無線のシャンペンゴールドの脚に変えました。

図10にシャシーの部品配置を示 します。

[図10] シャシーの部品配置(PDF)
zu10.gif (33291 バイト)

加工の際は、シャシーの塗装によけいな傷を付けないように、全体をマ スキングシートで覆い、穴開け位置を作図した方眼紙を貼り付けて、穴位置にセンターポンチを打ち、それを頼りに穴開けしました。
後は目の細か いサンドペーパー(1000番以上)で 塗装面を軽く荒らし、元の塗装に近 い色のスプレーラッ力ー(ニッペアイボリー等)を全体に薄く2〜3回吹き付けることで、穴開けの地金部分を隠しました。
さらに質感を落ち着かせるため、ツヤ消しのクリヤラッ力ーを全体に一吹きしました。
シャシーの表面に出るネジの頭も塗装してあります。

シャシー面のフラット感を損なわないように、皿小ネジを使いましたが、ネジ穴をテーパーに座ぐると、後で穴位置の修正が利かないため、正確な加工を要します。
執念を込めていても所詮は素人技のこと、どう しても僅かにズレが出てしまい、真空管ソケットの金具の穴をヤスリで 拡げてネジを通すなど、外見からは悟られまいとする裏技を用いたアマチュアならではの造りとなっています。

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配線について

裏返して作業する際は、トランスの頭を保護するためにゴム板を両面テ ープで貼り付けます。
また裏返す時には、重量が20kg近くあるのでトラ ンスやシャシーの角を傷めないように、厚いゴム板を当てがって慎重に行い ます。

バラックセットの段階で、球の配置、ソケットの向き、ラグ板の使い方まで決めていましたが、後からあれこれいじり回して、電源回路へリ レーを追加などしたためシャーシー内が少し繁雑になりました。

低圧電源の立型コンデンサーと、 リレーの駆動回路は基板へ載せてあります。

高圧ブロツクコンデンサーのケースはシャシーに対して90Vの電圧差があるので、絶縁スリーブを傷付けないように、また、−端子をうっかり アースと勘違いしないように注意が必要です。

線材は電流の大きな出力管のヒー ターと、配線インピーダンスの低い ことが要求される出力管のカソード側などにAWG18を使い、その他はAWG20を使いました。

配線がクモの巣のようにループを作ると、電源トランスから出る磁力線を拾ってハムを引くので、樹木のよ うに1つの根(アース、電源)から 、幹(L、Rの2本)を出し、幹から枝へと放射状の配線をします。

ピンジャックと初段管を結ぶシー ルド線は,電源トランスの近くを通る ため、ハムを拾わないようにL、Rをスパイラルチューブで束ねました。

シャシーへのアースはピンジヤック からの1か所です。

カップリングコンデンサーは周囲との相互干渉を避けるため、シャシーに添わせて取り付けてあります。

配線が終了したら、シャーシ内に残っている切断した素線や半田のクズ等をきちんと取り除かなくてはなりませんが、これには両面テープを棒の先に鳥モチ状に巻き付けたものを使うと、ブロ ックコンデンサーのスリーブの隙間とか、電源トランスの巻線の中にクズを押し込んでしまうことがなくて重宝します。

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調整方法

本機程度の複雑さともなると、いきなり電源を入れるのは無謀な賭けです。
一目で見通せるくらいの小さい範囲ごとに、発生し得るトラブルを想定し、万全の対策をした上で動作を確認して行くのが常道です。

本機の場合、出力段を単独で調整でき、DCバランスを取るだけで歪み率は最小となるので、テスター1台で行うことも可能です。

一応の手順として、まずは球を差さないで電源を入れ、各電源とリレーの動作を確認し、バイアス電圧調整用の半固定抵抗器VR2〜VR5をバ イアス電圧が深くなる方向に廻し切 り、定電流回路のVR1は最小として おきます。

次に片chごとに出力管を挿してVR4、VR5で出力管の力ソード抵抗1Ω両端の電圧を35mV(力ソード電流 35mA)に調整します。

次も片chごとに全段の球を差してVR1でV5のカソード電圧を190Vとし、VR2、VR3でV5の両ユニツトのプレート電圧を等しくします。
このVR2、VR3の調整は、一方のVRだけで行い、もう一方VRは元の廻し切った位置にしておきます。
アンバランスが大きくて調整できない場合はV1を交換します。

一通りの調整をした後も、1時間以上は様子を見て、安定していることを確認 します。

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特性と音質

冒頭で述べた通り特性で音は分かりませんが、回路が正常に動作しているかは特性を見るまで安心できません。
特性データを取ることは製作技術を自己分析する上で不可欠であり、製作者自身でなければ真理を解明できない内容のものです。

入出力特性を図11に示します。

[図11] 入出力特性(PDF)
zu11.gif (14298 バイト) 入力感度は、慨略で1.7Vの入力で出力のクリッピング・ポイントはちょう ど50Wでした。

周波数特性を図12に示します。

[図12] 周波数特性(PDF)
zu12.gif (20738 バイト) 高域を欲張った設計でないにも拘らず特性は意外とまともでした。
低域は限界を見るため2Hzまで特性を取 りました。

図13に全雑音歪み率特性を示し ます。

[図13] 全雑音歪み率特性(PDF)
zu13.gif (21103 バイト) データは残留ノイズの少ない Lchです。
残留ノイズはLchが0.25mVで、 Rchは0.42mVでした。ノイズの主成分はヒーターのハムで、DC点火すると0.1mV以下にできますが、実用上は現状程度で十分です。
出力と周波数の上昇に伴い歪み率が増加して、歪み波形が複雑な形に変わり高次の高調波成分が多く含まれるようになります。

図14にダンピングファクター特性を示します。

[図14] ダンピングファクター特性(PDF)
zu14.gif (21829 バイト) 1kHzで11.5です。1kHz以上で周波数特性に先行して低下するため、この曲線からオープンループ特性を推測できます。
超3結は帰還素子に3極管を用いたNFBアンプそのもので、出力トランスを低インピーダンスで駆動する特徴が全ての特性に反映しています。

図15にクロストーク特性を示します。

[図15] クロストーク特性(PDF)
zu15.gif (18940 バイト) 低域において残留ノイズレベル以下で、出力段の電源をL、R分離した効果が出ています。
3層構造電源の共通インピーダンスによる影響はなさそうです。

写真5〜7に方形波出力の波形を示します。
負荷抵抗8Ω、出力電圧振幅4Vp-pで観測しました。

[写真5] 100Hz [写真6] 1kHz [写真7] 10kHz
phot5.jpg (16402 バイト) phot6.jpg (14303 バイト) phot7.jpg (17105 バイト)

[写真8] 10kHz 入力フィルター無し

写真7は入力のハイカットフィルターがある場合の波形です。
写真8は入力のハイカットフィルターを入れない波形で、立ち上がりにもたつきが見られます。
phot8.jpg (15520 バイト)

音質は従来の超3結にあった低音の重さが感じられず、しかも力強さは失われていない、ゆったり伸び伸びした、聴き疲れしない音です。
低域まで十分に特性が伸びたことで、低音の音離れが良くなり、このためにEL34の音色が一層と引き立ったようです。

超3結のEL34は電流増幅という一面だけを音にしてい ます。
EL34が良い音を出せる使い方で、性能的にも高いレベルを達成することが理想のEL34アンプ像であるなら、これに本機はかなりアプ ローチできたと思います。

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Copyright © 1997 Shinichi Kamijo. All rights reserved.
最終更新日: 2002/09/19 18:58:01 +0900

更新履歴

OCRを使用した際の濁点と半濁点のチェックが甘く間違いが残っていた部分を修正。(2000/1/10)

初版発行(1997/9/27)


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