[純管球式 超3極管接続アンプに挑戦][本機の回路][保護回路][使用部品][製作][特性][終わりに]
Super Triode Connection Ver.1
超3極管接続Ver.1 6BM8 シングル ステレオパワーアンプ
MJ無線と実験 1993年2月号 に発表
これまでの超3極管接続(以下超3結と略す)アンプは,半導体が回路のシンプル化と高性能化の一翼を担うことで発展してきました.
半導体はヒーター電源が不要な上,小型で取り付け易く,価格が安く,扱いに慣れていました.
機能面一つ取ってもNchとPchがあり,その種類にしてもあり過ぎる程です.
それに引き替え真空管の方は,現在利用できる品種や品数にも限りがあります.
しかし真空管だけでどの様な超3結アンプができるのか興味が沸き,敢えて半導体を使わない管球式超3結アンプに挑戦してみました.使い古された真空管だからこそ良い面もあり,そればかりか切り口を変えれば,新鮮な輝きをも見せてくれます.
何もしないで,真空管アンプの回路など,すべて出尽くしたかのように思っている,怠慢な連中の鼻を明かしてやりたいものです.
図1に本機の回路を示します.
[図1] 本機の回路 PDFファイル117kB
入力信号によって初段管6EJ7のプレート電流が変化し,超3結の電圧増幅管6BM8 3極部のグリッド-カソード間抵抗にドライブ電圧を発生させます.
6EJ7のプレート動作電圧を確保するため,出力管6BM8の5極部のカソード電圧EKをカソード抵抗によって60V程度持ち上げています.
このため,B電圧がEKと6BM8の動作電圧200Vの合計で260V以上となり,電源トランスに管球用のタンゴN-12が使えるようになりました.B電源に整流管6CA4を使い,チョークコイルと大容量のコンデンサーでリップル電圧を奇麗に取り除きました.
電源電圧の変化に対して出力管のプレート電流を安定に保つ方法は,初段管のスクリーングリッドにEKを帰還して、初段管でEKを一定な電圧となるように制御するというシンプルな方式です.
出力管の動作電流の調整は初段管のカソード抵抗VR2で行います.
歪みは出力管カソード抵抗を増減して初段管プレート電圧を調整することで,劇的と言うほどではありませんが減らすことができます.
歪率計とオシロスコープが使えるなら実験してみてください.
本機は直結回路であるため,出力管よりも初段管が先にヒートアップして,出力管がヒートアップする時点では,初段管のプレート電圧が下がっていないと,出力管のプレート電流が過大になるという問題を抱えてます.
コールドスタートでは無事に立ち上がりますが,電源を切った直後に再び電源を投入すると,時として熱容量の小さい初段管が早く冷めるため,余熱のある出力管のヒートアップが先行して,出力管のプレート電流が過大になることがあります.
このためリレーを使い,出力管のリミット電流(動作電流の約150%)でB電源を切る保護回路を付けました.
リレーがリミット電流でターンオンするように,リレーコイルと並列に抵抗を抱かせて,出力管カソード抵抗の一部として入れました.
リレーが一度ターンオンすると,B電源とリレーコイルがドロッパー抵抗を通してつながれ,電源を切るまで保護状態を保ちます.
この部分の工夫として,Lch.Rch片方のリレーのターンオンで強制的にもう片方のリレーをターンオンさせ,B電源回路から大容量コンデンサーを切り離してB電圧を下げることで,ドロッパー低抗の発熱を少しでも減らすようにしています.
この保護回路は過電流の可能性がなければ不要ですから,純管球式にするという意地を捨てて,図2のように初段をトランジスターとしたいところです.
しかし本機では頑なまでに半導体の使用を拒否して,電源表示にネオンランプを用い,保護動作の表示はLED相当の豆電球を用いました.[図2] 初段をトランジスターとした回路 PDFファイル50kB
本機の使用部品一覧を表1に示します.
コンデンサーはブラツクゲー卜でそろえました.
[表1] 使用部品一覧
品名 数量 真空管 東芝 6BM8
2 真空管 松下 6EJ7
2 真空管 松下 6CA4
1 電源トランス タンゴ N‐12
1 出力トランス タンゴ U‐608
2 チョークコイル タンゴ 10H100
1 コンデンサー BlackGate SK 350V 220μF X2
1 コンデンサー BlackGate VK 350V 22μF
1 コンデンサー BlackGate 100V 470μF
2 酸化金属皮膜抵抗 5W 24kΩ
8 酸化金属皮膜抵抗 3W lkΩ
2 酸化金属皮膜抵抗 2W 240Ω
2 酸化金属皮膜抵抗 2W 22Ω
1 酸化金属皮膜抵抗 1W 200Ω
2 炭素皮膜抵抗 1/2W 5.6kΩ
2 可変抵抗 RV24YN 250kΩ(A)
2 半固走抵抗 RJC06PK 2kΩ
2 リレー 松下 HBI-DC12V
2 シャシー リード P‐12(250×150X60)
1 豆電球 1.5V 22mA
1 ネオンランプ 抵抗付き
1 電源スイッチ 1 ヒューズ 1A
1 ヒューズホルダー 1 MT9Pソケット タイト 金メッキ
5 ピンジャック 2P 金メッキ
1 スピーカー端子 4 配線材 AWG20 その他
適宜
シャシー上の配置は,トランス類の幅が揃っていることに乗じて一列に並べましたが,電源トランスに近いLchの残留ノイズがRchに比べて数倍も大きくなってしまいました.
これは電源トランスから出る磁力線がLch側の6EJ7に影響を与えているためで,シャーシー上の部品配置を工夫するか,磁気シールド付の電源トランスを使うことで改善されると思います.
本機のような配置にすると,このような結果になりかねないという悪い実例です.組み立て後あるいは部品交換後は,必ずVR2を最小から徐々に増加させて,3W lkΩ両端の電圧が42Vとなるように調整することで,出力管のカソード電流を42mAに設定します.
図3〜5の諸特性は,残留ノイズの小さいRch側を示します.
[図3] 入出力特性
[図4] 周波数特性 [図4] 歪率特性(Rch) 残留ノイズ(入力ショート)
Lch : 1.2mV, Rch : 0.26mV
最大出力は1kHzの正弦波入力,8Ωの抵抗負荷でノンクリップ2.5Wが得られました.
D.Fは最大6.15ですが,前作の16A8アンプのように,U‐608のタップ位置を2.5kΩと4Ωで使うと,D.Fが増加し,高域特性も向上します.
この辺はスピーカーとの相性や音の好みで選択すれば良いことです.ともあれ外見の印象からは予測できない力強い低音が出る,そのイメージギャップが何とも痛快です.
写真1〜3に方形波出力波形を示します.
[写真1] 100Hz [写真2] 1kHz [写真3] 10kHz
本機の製作で,球だけしかない時代でも超3結が存在可能であることを実証できました.
だが何も超3結の特性を回路接続で得ようとは,球に未来のあった時代には考えもしなかった筈です.
半導体がすべての座を制覇し,オーディオの将来をも半導体がつかさどるのかと危惧した時期に,
再びオーディオデバイスとして球の価値が見直され,球の存在が保護の対象になると誰もが予感した
世紀末的な盛り上がりの中で誕生した超3結は,もしや「球世主」ではないのかとふと思いました.
Copyright © 1997
Shinichi Kamijo. All rights reserved.
最終更新日:
2004/03/20 10:05:31