Evolve power amplifiers 

 

Static  Induction Transistor

2SK182
 Crossing Shunt Push Pull
P
ower Amplifier
Experiment file

2006年某月某日
数年前になるがインターネット検索中トーキンのSITをクルミ電子有限会社が販売しているのを見付けて、 当面使う当てなどなかったけれど今買い逃しては後悔するだろうと思い2SK183を4個注文したところ、親切にも特性の揃った2組のペアにして頂いて何としてもアンプにしないと申し訳ない羽目 となりました。
更にその上ご好意で、使えるか分からないとは言われたものの2SK182を6個無償で頂戴してしまい、感謝に耐えない思いと同時に半端なアンプを作っては許されないプレッシャーを課せられ 、それ以来これが私の一つの生甲斐となりました。
2SK182の内の2個は明らかな故障で特性を採ることさえできませんでしたが、幸運にも2個だけは特性が揃っていたので、これを2SK183で製作する前の実験研究に使わせて もらうことにして 、ここにそのレポートを綴ります。


2007年某月某日
下図左側のグラフは下図右側の回路でドレイン電流Id=0.5A一定に保ちドレイン・ソース間電圧Vdsを変化させた時のゲート・ソース間電圧Vgsを測定したデータです。

Vds-Vgs特性図
Vds-Vgs特性測定回路


2SK182と2SK183の各4個に固体識別のため、末尾に1〜4の番号を付けて管理しました。
2SK183の4個はペア組できていることがこの特性からも確認できます。
2SK182-1と2SK182-2の特性はよく揃っています。
2SK182-4は異常にμが高くて、まともではなさそうです。

このグラフの曲線はVdsが10Vから60Vの範囲のId=0.5AとなるVgsを表しています。
そしてこのグラフからSITのIdを一定に保つには、Vgsは一定でなくVdsに応じて変化させなければならないことが読み取れます。
だから逆に、このグラフの曲線の通りにVdsに応じてVgsを与えることができれば、Idは一定で変化しないことになります。
そのようにしてVdsが変化してもIdが一定のまま変化しなければ、電源電圧の変化に影響を受けない安定な出力段にすることが可能となります。

定常時のVdsを50Vと想定して、2SK182-1と2SK182-2の特性曲線のVds=50Vの位置(Vgs=-9.35V)に接線を引く と 、その傾きは儼ds/儼gs=(0-70)/-(5.2-11)=12となります。これはこのSITのVds=50V,Id=0.5A付近の電圧増幅率μです。
この接線を数式で表すとVgs=-5.2-Vds/12となります。
数式 通りの単純なVgsの与え方であってもVds=50V付近ならばId=0.5A一定に保つことができます。


2008年某8月某日
放熱器とSITの組み立て図

放熱器は現品.comから購入したジャンク品で、サイズは410×110×55です。
両面冷却をするため、SITのドレインとソースを1mm厚銅版で適当に造った電極板で挟み、0.5mm厚の絶縁シート (3M 9950H)と、20mm厚アルミブロックを介して放熱器に熱を伝えるようにしました。


上の写真の状態にもう一つの放熱器を乗せて出来上がったのが下の写真。


2008年9月某日
実験1

実験1回路図

THD(RL=8Ω、Po=1W)
f=100Hz:0.00032%
f=1kHz:0.00054%
f=10kHz:0.0048%


2008年10月某日

実験2回路図

本当は3作目の基板だが2作目は実験に至らなかったので、実質これが2番目の実験基板

10kHz 8Vpp

100kHz 8Vpp

 

THD(RL=8Ω、Po=10W)
f=100Hz:0.00025%
f=1kHz:0.00045%
f=10kHz:0.0040%

THD(RL=4Ω、Po=20W)
f=100Hz:0.00028%
f=1kHz:0.00070%
f=10kHz:0.0072%

最大出力 RL=8Ω、Po=150W / RL=4Ω、Po=220W / RL=2Ω、Po=300W


2008年11月某日
実験3

最終的なアンプの形にするため、新しく電源トランスを発注し、それに伴い回路を変更しました。
SITの電源電圧を70V程度にアップして、それに合わせて耐圧の高いトランジスターに取り替えるなどマイナーチェンジを施した。

実験3の回路図

モノラルなのにこの物量、おなじみフェニックスのRコアトランスRA300による2SIT独立電源トランス構成です。
今まで机の上にバラック状態で広げてあって移動さえ困難だった電源トランスやブロックコンデンサや放熱器を、L型に組んだ合板に載せてガッチリと固定した。


SITの電極板とブロックコンデンサを2mm厚銅版で接続、ドレイン側に板状の25mΩ電流検出抵抗が入れてある。

フェアリングなしのネイキッドスタイルが板についている。

2009年1月某日

フルパワー状態で発信器の周波数レンジを切り替えたらドレインに過大電流が発生して、SITが2つともドレイン・ソースがオープン状態で昇天した。
タイトルバックの絵が暗示していたかのように、私の手に思いがけず天から舞い降りたSITは、この手に抜け殻と思い出を残して再び天に旅立って逝った。

これがSITを飛ばした回路

これだけの回路であっても、過電流に対する備えが抜けていたために、惨めな結果を招いた。
チョットやそっとでは壊れないだろうという根拠のない油断があったことを反省したい。


2SK182はこれにて終焉し、2SK183による再挑戦へと続くのであった。

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