Super Triode Connection Ver.3
超3極管接続Ver.3 EL86 SEPP ステレオパワーアンプ
MJ無線と実験 1992年10月号 に発表
[超3結バージョン3|超3結SEPP回路|試作回路|本機の回路|電源回路|素子デ-タ|製作|パーツリスト|調整|特性]
内部抵抗の低い超3極管接続回路の電源には、内部抵抗の高い定電流電源を用いた方が動作電流が安定していて好都合です。 |
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超3極管接続(以下超3結と略す)が発想の起爆剤となり、次々と新回路が誕生する連鎖反応を起こしました。 やりたいことでいっぱいですが、思い付いたことの少しでも実現できたらと、本機を製作しました。 |
超3結は電流増幅を専門の出力管に任せて、3極管は得意な電圧増幅だけをしているために、内部抵抗の低さのみならず歪みの少なさも特徴です。
しかし、これまでの図1に示すバージョン1と、図2に示すバージョン2の電圧利得Aは、3極管の電圧増幅率μに等しいために、前置増幅回路を使って入力感度を高める必要があり、前置増幅回路の歪みを超3結回路と釣り合う程度に小さくすることは容易でありませんでした。
そこで考え出した方式が、超3結回路自体のAを大きくして前置増幅回路を不要にした、図3に示す超3結バージョン3です。
[図1] 超3結バージョン1 [図2] 超3結バージョン2 [図3] 超3結バージョン3 べ一シックなバージョン1は、出力管のプレートからコントロールグリッドヘ、帰還用3極管を介して100%の電圧負帰還を掛けているために、内部抵抗が出力管の1/gmとなり、帰還用3極管のグリッド-カソード間に信号を入力することで帰還用3極管のμに等しい電圧利得となります。
バージョン1を発展させたバージョン2は、帰還用3極管のカソード電流を電流入力形アンプで受け、利得Gで増幅して出力管に与えるので、Gを増すと内部抵抗 roをどこまでも低くできます。
バージョン3は、バージョン2の帰還用3極管のカソード側に抵抗R1,R2を挿入し、分圧したカソード電圧を帰還信号として利得Gのアンプの正相入力側に与え、一方の逆相入力側に入力信号を与えます。
図3の関係式が示すように、分圧比を大きくするほどμが拡大されてAを大きくできますが、Aを大きくすると、それに比例して roが増します。
内部抵抗の低い3極管による出力回路では、図4のように負荷を出力管と並列に接続し、電源は内部抵抗の高い定電流源とすることで、負荷抵抗に比べて出力管の内部抵抗が十分に低ければ、電源の電流変動は出力管に吸収されて負荷に出力されません。
[図4] 3極管出力回路 [図5] 5極管による出力回路 逆に内部抵抗の高い5極管による出力回路は、図5のように負荷を出力管と並列に接続し、電源は内部抵抗を低くすることで、出力管の内部抵抗が負荷抵抗に比べ十分高ければ、電源の電圧変動が出力管に吸収されて負荷に出力されません。
[図6] 3極管,5極管合体出力回路 そこで5極管出力回路と3極管出力回路を合体して図6のようにすると、両方の出力回路が相互に電源として作用し、相乗効果で負荷に対する強い駆動力と電源変動に対する高い安定性が得られるようになります。 この回路は既存のSEPPあるいはSRPPとして構成でき、3極管を超3結回路に置き換えることで桁違いに強力な回路となります。
超3結OTLアンプは後の楽しみに夢として取っておき、手始めは球を効率的に無理をせず使えるように出力トランス付きとしました。
SRPPはドライブ回路が簡単ですがA級動作でしか使えず、規模の割に出力が取れないので、SEPPによるB級動作とし、超3結はバージョン3の方式を使います。
[図7] 超3結SEPP
試作回路 1図7は本機の原型となった試作回路です。
回路を簡単にするためドライブ回路に半導体を使いQ1とQ2のコンプリメンタリー回路1段で増幅と位相反転をしています。
この回路は入力を直結とする目的でQ1にPchFET 2N5465を用いました。Q2に使用するトランジスターはコレクター-べース間の最大定格電圧VCBOが電源電圧よりも高い必要があるため、VCBO:500Vの2SC2752を採用しました。
上下出力管の中点電圧調整はQ2のべースバイアス電圧で行い、出力管の無信号時の電流(アイドリング電流)の調整はQ1のドレイン負荷抵抗100kΩに加える電圧(-250Vくらい)で行います。
Q1のドレインに接続してあるツェナーダイオードは、電源投入時にV1が暖まるまではQ1がカットオフ状態なので、ドレイン電圧の最大定格を越さないようにQ1を保護するためのものです。
回路図から明らかなように超3結SEPP回路は、電流増幅を出力回路のプッシュプル動作で行いますが、電圧増幅はV1のシングル動作の特性に依存しています。
この重要な 3極管V1には、広範なプレート電圧で直線性の良好な12BH7Aを採用しました。
V1のプレート電流は、多いほどプレート内部抵抗が低くなり超3結回路の内部抵抗も低くできますが、反面プレート飽和電圧が上昇するため電源電圧利用率が低下し、最大出力が減少します。
またV1のプレート内部抵抗に出力が食われてロスになるため約1mAとしました。出力管V2、V3はSEPPに適したEL86/6CW5です。
表1の動作例を参考に、電源電圧400V、無信号時のプレート電流30mAとしました。スクリーングリッド電源はチョークコイルとコンデンサーで簡単に得ているため、そのカットオフ周波数以下ではスクリーングリッドをプレートに接続した3結と同じ状態になり、プレート内部抵抗が下がり電源電圧の長周期の変動に動作電流が変化してしまい、低域で特性が悪化します。
このように超3結SEPPとしては完全体でありませんが、無闇に回路を複雑化すると音質へのデメリットも増え、一向に音質の改善しない堂々めぐりをすることになるので、旨い方法が見付かるまでの間は、この暫定回路で行きます。
この回路は出力トランスがスクリーングリッド電流で直流磁化されて特性が悪化する心配がありますが、本機に採用したタンゴCRD-5の資料によると、安全直流電流アンバランス分は8mAなので大丈夫です。
出力をできるだけ多く引き出すため、CRD-5の1次側は2つの巻線を並列接続し、2次側は16Ω端子に8Ωを負荷して、625Ω:8Ωのインピーダンスで使用しました。
チョークコイルには信号電圧が掛かるため、プレート負荷に使えるタンゴTC-60-35Wを採用し、2つの巻き線は並列接続で使用しています。
この回路の性能は、lkHz,8Ω抵抗負荷で、最大出力14W。
1W出力時の歪率は0.1%、D.Fは3.5、利得は8倍でした。このままでも十分実用になりますが、図8のようにQ1を利得の高いトランジスター2SA872Aに交換したところ、歪率が0.45%に減少し、D.Fは5.7に増加しました。
さらに中点電圧調整のQ2のバイアス電圧がR1、R2の値によっては0Vにできるため、このバイアス電源を省くことが可能です。しかし入力インピーダンスが低いことと、カップリングコンデンサーを必要とすることが難点となります。
[図8] 超3結SEPP
試作回路 2
[図9]アンプ回路 |
そこで図9に示す本機の回路では、入力をQ1のFET2SK30Aソースフォロワーで受けるようにしました。
Q1のドレイン電圧は12BH7Aの余っている片ユニットのカソードフォロワで安定化し、ソース側電源VSSはツェナーダイオードで安定化しました。
VSSは定電流ダイオードE102の耐圧100V以下とします。
Q2のコレクター電圧が最大定格を越えないように保護するため、Q2のコレクターからVSSヘダイオードを接続しました。
このダイオードは接合容量が小さいことと、VSS以上の耐圧が必要であるため、2SC1775Aをダイオードとして使用しています。入力ショート状態で微小な発振をするため、発振防止にQ1のゲートに470Ωを直列接続しました。
B電源回路に電流チェックするための抵抗10Ωを入れてあります。
図10に本機の電源回路を示します。
[図10]電源回路
電源トランスにタンゴST-220を採用し、電源ノイズに強いアンプ回路であるためB電源は簡略化してコンデンサーインプット整流でAC280VからDC約400Vを得ています。
電源投入時にアンプ回路のコンデンサーを充電する電流が出力トランスを通ることで、その瞬間にポップノイズを発生するため、ポップノイズの抑制とついでに整流ダイオードのサージ電流に対する保護を兼ねて、タイマーリレーでコンデンサーの充電完了時間を見計らって、電流制限抵抗を整流ダイオードと直列に入れるようにしました。
タイマーリレー回路はQ4、Q5で構成され、AC6.3Vを整流した電源で動作します。
この回路はリレーがターンオンすると同時にタイミングコンデンサーCTが放電するので、短時間だけ電源OFFして再度電源ONした場合でもタイマー時間は縮まることなく一定の時間で動作します。タイマー時間 T はおよそ T(秒) = CT (μF) ・ RT (MΩ)であり、本機は約2秒に設定してあります。
Q4は汎用小出力Tr,Q5はリレーを駆動するに十分な電流の流せるパワーTrなら何でも構いません。
電流制限抵抗には最適値があり、低くても高過ぎてもリレーのターンオン時にポップノイズが出るため、カットアンドトライで1kΩと決めました。
V3のカソード電圧が高いため、ヒーター-カソード間最大定格電圧をオーバーしないよう、ヒーターバイアス電圧として V3のヒーターに V2のスクリーングリッドの電圧を掛けてあります。
このために V3にはチャンネルごと単独でヒーター電源が必要となりますが、ST-220は6.3V巻線が5つもあるので好都合です。C電源の電圧が高いとドロッパー抵抗による無駄な発熱が増えるので、AC250Vのタップを利用して約 -350Vにしています。
VSSを安定化するためのツェナーダイオードは2本直列に用いて、1本あたりの発熱を減らしました。
[表1]素子デ-タ
品名 ヒーター 最大規格 EL86 6CW5
Vf If Eb Ec2 Pp Pg2 Ik ehk (V)×(A) (V) (V) (W) (W) (mA) (V) 6.3 0.76 550 250 12 1.75 100 ±200 B1 PP動作例 Eb Ec2 Ec1 RL Ib Ib sig Ic2 Ic2 sig Po (V) (V) (V) (kΩ) (mA) (mA) (mA) (mA) (W) 170 170 20.5 3.5 15×2 57.5×2 0.7×2 20.5×2 13.5
品名 ヒーター 最大規格 12BH7A Vf lf Eb Pp ehk (V)×(A) (V) (W) (V) 6.3 0.6/12.6 0.3 450 3.5 ±200 動作例 Eb Ec1 Ib gm μ rp (V) (V) (mA) (mS) (kΩ) 250 -10.5 11.5 3.1 16.5 5.3
品名 最大規格 特性 VCBO IC PC Hfe (V) (mA) (mW) 2SA872A -120 -50 300 250〜800 2SA1015 -50 -150 400 70〜400 2SC1775A 120 50 300 400〜1200 2SC2655 50 2000 900 20〜240 2SC2752 500 500 1000 20〜80 2SK30TM VGDS IG PD gm (V) (mA) (mW) (mS) -50 10 100 1.2(min)
シャシーは最小限の大きさを狙って、B5サイズのリードS5(250×180×60)を使いました。
図11に部品配置を示します。
[図11]部品配置 シャシー上が狭いので、トランス類は現物から寸法出しをして1〜2mmの隙間で並べ、真空管は残りの僅かなスペースに配置しました。
シャシーの内部は深さがあり、部品を立体的に取り付けられますが、なにしろ狭いため、部品配置と配線は入力と出力が接近しないように注意し、半田付けする部品の取り付けは順序立てして、後から取り付ける部品に隠れる箇所の配線から先に行わなければなりません。 アースの配線は電源のブロックコンデンサーに集め、そこからシャシーへ落としています。
VR2(アイドリング電流調整用ボリュ-ム)の取り付けは、端子を90°ねじり 3Pタイト製クシ型端子板にハンダ付けしてあります。
半導体回路の部品は1L6Pのラグ板に、要所部分をぐらつかないように固定した空中配線です。
リレーは電源トランスの端子板の上に両面テープと結束バンドで固定しました。
この取り付け位置は旨かったと思ってます(写真右)。シャシー内部写真
表2に主要パーツのリストを示します。
[表2]パーツリスト
品 名 |
数量 |
品 名 |
数量 |
|||
真空管 |
ムラード EL86ペア |
2 |
酸化金属被膜抵抗 |
3W68kΩ |
1 |
|
真空管 |
GE 12BH7A |
2 |
酸化金属被膜抵抗 |
3W1kΩ |
1 |
|
トランジスター |
日立 2SA872A |
2 |
酸化金属被膜抵抗 |
2W100kΩ |
4 |
|
トランジスター |
東芝 2SA1015 |
1 |
酸化金属被膜抵抗 |
2W10Ω |
2 |
|
トランジスター |
日立 2SC1775A |
2 |
酸化金属被膜抵抗 |
lW30kΩ |
2 |
|
トランジスター |
東芝 2SC2655 |
1 |
酸化金属被膜抵抗 |
1W270Ω |
1 |
|
トランジスター |
NEC 2SC2752 |
2 |
炭素被膜抵抗 |
1/4W lMΩ |
1 |
|
FET |
東芝 2SK30ATM |
2 |
炭素被膜抵抗 |
I/4W100kΩ |
2 |
|
ダイオード |
東芝 1S1588 |
1 |
炭素被膜抵抗 |
1/4W10kΩ |
3 |
|
ダイオード |
東芝 1S1832 |
2 |
炭素被膜抵抗 |
1/4W1kΩ |
4 |
|
ダイオード |
東芝 1S2711 |
2 |
炭素被膜抵抗 |
1/4W470Ω |
2 |
|
ブリッジダイオ一ド |
東芝 1B4B1 |
1 |
可変抵抗器 |
RV24YN 50kΩ(B) |
2 |
|
ツェナーダイオード |
東芝 1Z43 |
2 |
半固定可変抵抗器 |
RJC06PK 5kΩ |
2 |
|
定電流ダイオード |
石塚電子 E102 |
2 |
りレー |
松下HC2-H-DC6V |
1 |
|
電源トランス |
タンゴ ST−220 |
1 |
シャシー |
リード S5 |
1 |
|
出カトヲンス |
タンゴ CRD-5 |
2 |
電源スイッチ |
LED付 |
1 |
|
チョ-クコイル |
タンゴ TC-60-35W |
2 |
ヒューズ |
2A |
1 |
|
コンデンサー |
日ケミ 500V100μF×2 |
2 |
ヒューズホルダー |
1 |
||
コンデンサー |
日ケミ 350Vl00μF×2 |
2 |
真空管ソケット |
タイト下付 MT9P |
4 |
|
コンデンサー |
日ケミ 500V47μF |
5 |
RCAピンジャック |
2 |
||
コンデンサー |
16V470μF |
1 |
スピーカー端子 |
4 |
||
コンデンサー |
50V2.2μF |
1 |
クシ型ラグ板 |
タイト 3P |
2 |
|
コンデンサー |
50V0.Iμf |
1 |
L型ラグ板 |
べーク 1L6P |
4 |
上下出力管の中点電圧はVR1で電源電圧の1/2に設定します。
出力管のアイドリング電流はアイドリング電流を含めて電源電流を35mAとするため、B電源に入れてある10Ωの抵抗に発生する電圧が0.35VになるようにVR2で調整します。調整の要領は、先ず電源を入れる前に中点電圧調整用のVR1を最大にしておき、アイドリング電流調整用のVR2を最小としておきます。
中点電圧の少しの変化でアイドリング電流が大きく変化しますが、逆にアイドリング電流が変化しても中点電圧の変化は少ないので、電源を入れたら先に中点電圧を調整して、その次にアイドリング電流の調整を行うようにします。
L,RのチャンネルでVR1の抵抗値が大きく異なると、利得やD.Fにチャンネル差が出るため、ある程度特性のそろった12BH7Aを使わなければなりません。
また、歪率を低くするためには12BH7Aの選別が重要です。
周波数特性は図12に示すように、低域は10Hzまで平坦で、内部抵抗の低い出力回路が出力トランスを強力に駆動している証明です。 高域はドライブ回路の高域特性で制限されていますが、無理してまでドライブ回路を広帯域化し、出力トランスの複雑な高域特性に委ねるより良いと考えます。
[図12] 周波数特性
D.Fは図13に示すように1kHzで5です。 [図13] D.F持性
入出力持性は図14に示すように、約1Vの入力で最大出力14Wに到達します。 [図14] 入出力持性
歪率特性は図15に示すように、100Hzと1kHzはまったく同じですが、10kHzでは小さくなりました。
この理由は、高域でドライブ回路の歪みが出力回路の歪みを打ち消す方向に増加すると考えられます。
歪み波形が図8に示す通りの2次歪みで12BH7Aシングル動作の電圧増幅特性によるものですから、直線性の良い12BH7Aに巡り合うことが歪率を小さくする鍵となります。残留ノイズは原因不明ですが、両チャンネル共フリッカーノイズがあり、低いところで0.15mV最大で0.5mVくらいをフラフラしています。
[図15] 歪率特性
クロストーク特性を図16に示します。
L,Rチャンネルを分離して対称の部品配置としたため、特性は良好で、チャンネル相互の差もありませんでした。[図16] クロストーク特性
[写真1] 100Hz [写真2] 1kHz [写真3] 10kHz 方形波100Hz,1kHz,10kHzの出力波形を写真1〜3に示します。
[写真4] クリップ波形 クリップ波形は写真4に示すように、上部はスパッと平らに切れますが、下部が丸まった潰れ方をしています。
これはドライブ回路がV3を完全にカットオフできない方式であるためです。
音質は低域にこれまでの超3結アンプの重さがなく素直です。
特徴があるのは中高域で、明るく端々しいきらめきのある音です。
終わりに
超3結は目的に合わせた応用と、既存め回路との組み合わせで、様々なバリエーションの展開ができ、出力管を半導体に換えれば簡単にOTLアンプが可能です。今回も球石器アンプでしたが、気紛れに一度、純管球式に挑戦してみようかと思います。
いずれ発想エネルギーの高まりが超3結を超えた回路へのジャンプを果たすと信じて、いまは先進性とか、特性、あるいはパーツや物量、音質などで他と張り合う気持ちを捨て去り、自由に静かに楽しみたいと思います。
Copyright © 1998
Shinichi Kamijo. All rights reserved.
最終更新日:2000/04/23 11:33:32 +0900