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[ABC回路][エミッター・フォロワのROの実測][本機の回路](電流増幅段の高域限界)(発振対策)(ABC回路)(保護回路)(電圧増幅部電源)(電流増幅部電源)(アースライン)[使用部品][配線][本機の性能][おわりに]
エミッタ抵抗レス 無帰還
A級15W モノーラル パワーアンプ
パワーアンプでは熱暴走を防止するために,一般にパワーTrのエミッターと直列に0.5Ω位の抵抗REを入れますが, これを取り除くと無帰還でも十分に低い出力抵抗Roが実現でき,広い周波数帯域に渡って高いダンピング・ファクターD.Fでスピーカーを駆動することが可能になります.
REを取り除いた場合,パワーTrとの熱結合による温度補償型バイアス回路では熱暴走の防止が不可能になるため, 独自で開発したABC回路(自動バイアス制御回路)によって、アイドリ ング電流IQの完璧な安定化を行いました.
ABC回路の動作を図1によって説明します.
[図1] ABC回路
Q1によるバイアス回路のバイア ス電圧はフォト・カプラーPCにより制御します.
出力Tr Q2,Q3のIC検出抵抗RCに発生する電圧と,基準電圧VREF を,Q4〜Q7の演算回路に入力して, 出力電流IOの成分を消去し,アイ ドリング電流IQの成分とVREF の差をVABCとして取り出します.
Q2のコレクター電流IC+=IQ+IO , Q3のコレクター電流IC-=IQ-IO と定め,演算部のゲインAとすると
VABC =A{(IC+・RC‐VREF )+(IC-・RC‐VREF )} =2A(IQ・RC-VREF ) となります.C・Rの積分回路で応答速度を設定し,Q8でPCをドライブします.
VABCが一定となるようにABC 回路が作動するために,VREF を可変するとIQの調整が行えます.
この回路では,IQが増加した場合 VABCはマイナス方向に増加して,バイアス電圧が減少し,IQが安定化されます.
応答速度の上限はフォトカプラーの性能で制限され,汎用のフォトカプラーでは30kHz止りです.
そのために,C・Rの積分回路のCを小さくしてしてオーディオ帯域内でリアルタイムに ABC回路を動作させると,頭打ち形の第3高調波歪みが増えるので,C・Rの特定数を大きくして応答速度を10Hz以下としました.Rcの値はQ2,Q3のコレクターと電源間の配線コードの抵抗( 5mΩ)程の低さでも熱暴走は起こりませんが,演算部のTrの温度ドリフトが影響してIQの変動が大きくなります.
この回路は動作原理上,A級PP回路に適します.
定電圧ドライブによるエミッター ・フォロワ回路の出力低抗ROは,図2の回路でVBE-IE 特性を測定して,
RO =ΔVBE/ΔIE により求めることができます.[図2] VBE-IE 特性測定回路(1)
実測したVBE-IE 特性を図3に示します.
[図3] VBE-IE 特性(1) VCE =5V 一定 VCE = -5V 一定 気温により測定値は変動しますが,相対的なカーブの傾向は同じです.
IE =1A付近でROの値を求めると,
2SD388が0.067Ω,
2SD388Aが0.1Ω,
2SB600の旧タイプが0.06Ω,
2SB600の新タイプは0.1Ω,
2SB753と2SD843は0.03Ω位と,
素子によってずいぶんと差があることが理解できると思います.Roが,小電流域から低く,大電流域まで減少傾向にあるTrを使い, IEがフルスイングしてもVBE-IE特性の湾曲度の大きな部分に掛らないように,IQを0.2〜0.5A以上多目に流すA級動作とすることで,ROを低減でき,またIEに対する ROの変化量を少なくすることができます.
図2の回路はVCEを一定としてますが,負荷抵抗RLよる電圧降下でVCEが変化する場合について,図4の回路でVBE-IE静特性を測定したデータを図5に示します.
[図4] VBE-IE 特性測定回路(2)
VCC =30V,VCE =VCC - IE・RL[図5] VBE-IE 特性(2)
2SD388IEが増加すると,VCEがIE・RLだけ減少するため,ROが増大して VBE-IE特性はS字形となります.
このため出力電圧が大振幅になると,ROが増大して制動力が低下するとともに,頭打ち形の第3高調波歪みを発生します.
またRLの値が変わればばVBE-IE特性も変化するため, スピーカーが負荷の場合には,逆起電力等でさらに複雑な歪みの発生が予想されます.したがってVCEは一定にすべきであり,その手段としてカスコード接続を採用しました.
カスコード接続により出力Trの VCEを5〜10Vに固定化すれば,小型でPCmaxは小さくても,ROの低い 2SB753/2SD843を出力段に使うことができます.
カスコード段に,オーディオ用では最大級のPCmax =200Wの2SB600/2SD555を用いて得られる最大出カは,A級の場合15〜20W程度です.
これ以上の出力を得るにはパワーTrの並列接続かAB級動作以外に手段がなさそうです.
IQを減すとRoの増大となるので,総合的に見て15〜20Wは最小規模にして最良のバランスが得られる最大出カと云えます.
パワートランスにタンゴRS-3101 を用いて,モノーラル構成としました.
全回路図を図6に示します.
[図6] 全回路 PDFファイル274kB(PDFの回路図はA4サイズ横1枚に印刷できます)
Q1〜Q6はコンプリメンタリープッシュプル2段増幅による電圧増幅部で,Q1,Q2 はゼロバイアス動作により歪みを低減しました.
Q2のgmがQ1よりも高いため Q2のソースにRT1を入れACバラ ンスを取り,RT2で全体のゲインを約10倍に調整し,Q1のIDSSがQ2の RT1を含むIDSSより大きいためRT3 でQ1,Q2のソースをプラスバイアスして DCバランスを取りました.
Q1,Q2はQ3,Q4でカスコード化し,ドレイン損失とゲート漏れ電流を減し,ドリフトを減しました.
電圧増幅部をプッシュプル接続とした最大の理由はQ7によるバイアス回路の電圧変化を出力に出さないためです.
Q8〜Q10が電流増幅部で、Q8〜Q13 がカスコード段,Q14〜Q19が出力段です.
ともに3段ダーリントン構成と,ドライブ段にアイドリング電流を多目に流すことにより,ドライブイ ンピーダンスを下げて,パワーTrを定電圧ドライブしました.
パワーTrのICBOの影響を減すため,パワーTrのB-E間と並列に抵抗を入れることがありますが, それによって出力抵抗が増大するため,敢えて入れてありません.
出力段TrのVCEがカスコード段によって固定されて一定である限りコレクタ-ベース間の静電容量Cobの充放電は行われないので,高周波域でも ICは増加しませんが,カスコード段はVCEが変化するためCobの充放電をスムーズに行わないとCobにチャージアップされた電圧によって 出力TrのVCEが増加します.
VCEが増加すると出力波形が歪み,ついには発振状態となり,高域での最大出カが制限されるので,VCEの増加開始点を電流増幅段の高域限界と見なせます.
高域限界は,ドライブ段のアイド リング電流を増すことである程度延びます.
この様子をQ8,Q9のエミ ッター間の低抗値を変えて実測し, そのデータを図7に示します.
[図7]電流増幅段の高域限界 グラフの水平部分はクリップ直前の出力。 下降部分が出力段トランジスターのVCE上昇直前の出力で、電流増幅部の高域限界を表わす。
高域限界以上の信号を入力しないために,電圧増幅部の入力にハイカット・フィルターを入れました.
また出力側から高域 限界以上の信号が注入されても不安定になるため,0.01μF+10Ωによって出力側の高周波でのインピーダンス を下げてあります.
電流増幅部の入力対アース間のス トレー容量が大きいと発振し易くな るため,この部分の配線には注意を要します.
カス コード段のバイアスに2SC1845のB-E間をツェナーダイオードとして使いましたが,ツェナーダイオードのノイズが発振を誘発するために,並列に0.1μFを入れました.
Q10,Q11のコ レクター・アース間の0.1μFは,コレクターの近くに接続しないと発振します.
Q12,Q13のコレクター・アース間にはコンデンサー無用です.
仮にコンデンサーを入れるとそこに電源のリップル電流が流れ込み,ABC回路のIC検出抵抗0.47Ωにリップル成分が重畳し,正確なアイドリング電流の検出ができなくなります.電源ON,OFF時等の電源電圧の低い期間に電流増幅部が発振するため,その防止にQ16,Q17の,コレクタ ー間に0.1μF+10Ωを入れました.
発振対策上さらに重要な点はTr の選択にあります.
電流増幅部の初段にFETを用いたり,fTの高いTrを試して見ましたが,安定に動作するTrは少なく,現在のラインナップに落ち付きました.
Q20〜Q27がABC回路で,IC検出抵抗に0.47Ωと大きな値を用いたため,演算部に多少のドリフトがあっても無視できます.
VREFはQ26の定電流源によって作り,RT6,RT7 (RT6 =RT7)によ り、IQ =1.2Aに調整します.
Q7のバイアス回路は,フォト・カプラーに使われているフォトTrのコレクター抵抗が高いほどバイアス回路の内部抵抗を低くできます.
TLP521の場合は電流変換効率IC/IFが小さいほどフォトTrのコレクター抵抗が高いようです.
またフォトTrのVCEが低いとコレクター抵抗が低くなるため,Q7のべース側に電圧レベルシフトのLEDを入れてあります.電源ONの瞬間はVABC = 0Vであるため,Q27にはRT8で設定された電流が流れ,初期バイアス電圧が発生しますが,これが高いと出力段に過大な電流が流れるため,初期バイ アス電圧と定常時のバイアス電圧が等しくなるように,定常時はVABC =0〜+0.1VとなるようにRT8を調整します.
電源OFFでは出力段TrのVCEが他より早く低下してICが減少するためVABCが上昇し,この時電源を再びONすると,出力段に過大なICが流れる危険があります.
これを防ぐため, Q26と直列にツェナーダイオードを入れ電流増幅部の電源電圧の低い期間中は,VREFを0VにしてVABCをマイナス電位としています.D1,D2は保護回路が動作した場合に,Q20〜Q25が逆バイアスになるのを防くためのものです.
保護回路は電圧増幅部の安定化電源をカットオフすることにより,電流増幅部の入力がアース電位となリ, 同時にバイアス電圧も無くなり,電流増幅部がカットオフして出力がオープン状態となります.
過電流検出と保護状態のラッチにフォト・カプラを用いたので,保護回路をシンプルにできました.
過電流検出は,PC2,PC3で ABC回路のIC検出抵抗0.47Ωに発生する電圧を監視しています.
PC2,PC3のLEDの電圧が1〜1.2Vで保護回路が作動しますから,RT4,RT5でIC =2.4Aで作動するように調整します.Q36〜Q38による出カDC電圧検出回路は,積分回路の抵抗を500kΩから5kΩまで変えても, ±0.7〜0.5Vの感度で動作します.
PC4のLEDとフォトTrの直列接続回路で保護状態をラッチします.
PC4のLEDにトリガー電流が流れるとPC4がラッチアップして,PC4に電流が流れ続け同時にQ40,Q41をONして安定化電源の基準電圧を0Vにします.
リセットはPC4のLEDをリセット・スイッチでショー トすることで行います.
LED2,LED3はバイアス電圧を作るためのものですが,通常はLED3が点灯し, 保護状態ではLED3が消えLED2が点灯するので,保護動作のモニターを兼ねたパイロットランプとしてフ ロントパネルに出します.
Q28〜Q35が電圧増幅部の安定化電源で,定電流を抵抗に流して基準電圧を作り,これをMOS・FET-Trダーリントン・エミッターフォロワ回路によって出力します.
Q28,Q29のエミッタ・アース間にコンデンサーは不要ですが,コレクタ・アース間の0.1μFは無いと安定化電源が発振します.
Q34,Q35の定電流回路は,Q32, Q33のカスコードTrによりQ34, Q35の耐圧不足を補うと同時に,定電流性を高めました.
出力電圧はRT9,RT10で±45Vに調整します.
電流増幅部の電源は非安定ですが, カスコード段が信号電圧に追従して出カ段に電カ供給するダイナミック 電源と見ることができます.
アースラインの接続は,コモンモ ード・ノイズを減すため図8に示すように,入力側に2芯シールド線を用いて信号伝送路とアースラインを分離しました.
また出力側は,電流増幅部の入力抵抗Riのアース側を, OUT端子コールド側に接続することで,OUT端子コールド側と電源間の配線の影響をなくすことができます.[図8] アースラインの接続図
本機に使用した半導体の規格を表1に示します.
[表1