Evolve power amplifiers | |||||
歪み除去回路付パワーアンプ |
様々な歪打消し方式を研究して行く中で、MJ無線と実験1985年5月号のテクノロジー最前線Vol.14『無帰還増幅と低歪率化』で紹介された、純粋無帰還回路の等価回路を見ていて、私の思い付いたアイデアの実験です。
純粋無帰還回路とは、無帰還増幅回路で発生する歪みとは逆相の歪みを、歪み除去アンプで生成し、出力で加算することで、歪みのない増幅を可能にする方式で、デンオン(日本コロムビア)の呼称です。
類似の基本原理では逸早く製品化したヤマハのZDR(ゼロ・デストーション・ルール)があります。
NFBアンプが割り算で歪みを減らすのに対して、歪み除去アンプは引き算で歪みを打ち消す点が特徴で、NFBアンプは歪みを限りなく0に近づけますが決して0にはなりません。ところが歪み除去アンプでは0にすることが可能です。しかしそうするために今度は打消し信号のレベルや位相がズレないように、歪み除去アンプの性能が問われるわけで、主アンプの問題を歪み除去アンプに転化しただけの、依然として本質的な問題の解決になっていないという厳しい見方もあります。
純粋無帰還回路の基本回路
純粋無帰還回路の等価回路
以上のようにR4 =R2 A' であれば、歪みを含んだAV が消去されることを証明できます。
但し皮肉なことにA' に歪みがあれば、その歪みが新たに追加されますから、R2 を大きくしてA' を小さくし A' の歪みの影響を減らさなければなりません。しかしAV の歪みが大きいとA' に大出力が要求されるため、AV は元来歪みの小さいアンプである必要があります。AV が歪みの小さいアンプであれば、A' は小出力アンプでよくなるため、A' は歪みの少ない動作が可能になり、より歪みが減ります。
この方式はデンオンのパワーアンプPOA-8000採用されました。
実験回路
下図に実験回路を示します。
前述の純粋無帰還回路の等価回路のAV
に相当する部分が、Q7によるA級シングル動作のソースフォロワ回路で、そのソース側に、A' に相当するQ6,Q7で構成される歪み打消し回路を入れてあり、Q7のソース抵抗にQ8のソース電流で逆歪電圧を発生させる仕組みです。
回路は一見すると出力段は下側にインバーテッドダーリントン回路を配した疑似コンプリメンタリープッシュプル回路のようですが、VR3を調整することで歪みの打消しができます。
VR1で出力のDC電圧を0に調整し、VR2でアイドリング電流を0.8Aに調整しました。
VR3は無負荷時と加負荷時の歪率が等しくなるように調整しました。そうする理由は、無負荷時の歪率はほとんどが電圧増幅段の歪みと考えられるので、負荷のある時と無負荷の時の歪率が等しくなれば、出力段は無歪みの状態と考えられるからです。
1kHz 8Ωの場合のTHDは、1Wで 0.025%、 4Wで 0.06%でした。 Zoは0.3Ω位です。