初期のレコードが機械吹き込み〜機械再生で誕生してから、真空管の発明によって音声を電気信号として扱えるようになり電気吹き込み〜機械再生または電気再生と進歩しました。その後ステレオ LP 時代が終るまで、音声の記録方法は機械的な振動波形そのものが主流でした。
そのかたわら磁性体による音声の記録再生メディアの開発が進められ、業務用または一部のアマチュアではオープンリール磁気テープによる磁気録音再生がおこなわれていたものの、磁気録音再生メディアが大衆化し普及したのは1970年代に大いに普及した所謂カセット磁気テープからでした。この間に真空管は逐次半導体に置き換えられました。
一方、文字情報の電気信号化はテレタイプやコンピュータの入出力装置により始めからディジタル化が進められ、また映像情報の電気信号化はアナログの FAX やビデオ信号そのものの記録再生から始められ、記憶媒体は専ら磁気テープでした。静止画像は CCD カメラによりディジタル化が開始されました。
ディジタル信号方式の源流はテレビ技術やレーダ技術にて先行していましたが、ディジタル方式への進歩を決定的に促したのはコンピュータ技術、シンセサイザ技術、エラー訂正技術、レーザ技術、それに記憶媒体技術の進展と融合です。LP 時代の終りに出現した PCM 録音はコンピュータ技術に支えられて CD レコードへの技術的な橋渡しとなりました。
CD レコードの開発では、レーザ技術によってディジタル信号の光学的記録が実現したことは注目に値します。当時、大容量記憶媒体には磁気テープしか方法がなく、長時間対応ではビデオデッキ大の記録再生装置と重い磁気テープが必要でした。それがレーザ技術によって何と12センチの軽く薄いディスク (CD-DA) に大量の情報を収め、同時に大量の複写を可能にしたのです。
ディジタル信号の磁気記録はコンピュータの世界で先行し、音声用として DATが実用化されたのは CD レコードより後になりました。その後光磁気ディスク (MO) が後を追っていますが、容量当たりのメディアコストが下がり用途が開けてきました。
このようにディジタル信号方式は大容量記憶媒体の助けを借りてこそ実用化と普及が進んだと言えましょう。
ディジタル技術は文字情報や音声だけでなく、映像の世界にも着々と進んでいました。1980年代には CCD スキャナで画像をディジタル化でき、今日のディジカメはすぐそこに来ていました。文字〜音声〜映像の総合編集の技術が発展し、その途上では、レーザカラオケに見られるハイブリッドのマルチメディアになった訳です。実はディジタル動画の通信対応だけは現在に至るも所要帯域幅および圧縮技術などの点から、実用化途上にあります。
一方パッケージ系では最近の DVD に見られるとおり、本当の実用化「マルチメディア」の域に達して、遂に文字〜音声〜映像のディジタル技術レベルが同一線上に揃って、総合化されたことを意味します。
電話交換機がコンピュータ化され無線通信と合成されて携帯電話が実用化したのはつい最近のことです。また家庭にパソコンが普及するに従い、ネットワーク経由にて文字〜音声〜静止映像が自由に通信できる状況になり、パソコンは家庭用「情報コントローラ」機能にシフトしつつあります。
今日のように電気通信技術とその応用開発が進むに従い、各種のメディアが生活に入り込んで、我々は余暇時間を楽しむことが可能となりました。オーディオの進展も上記のメディアの進展の一部であり、私達は大いにその恩恵の一端に浴している訳です。
オーディオ装置にて音楽を楽しむ際には、時には単にオーディオだけに限定せず、またこれら各種メディアを単なるブラックボックスとは看做さずに、電気通信技術とその応用技術の歴史と発展の裏付けに思いを致すことも、また歴史を訪ねながらブラックボックスを少し開けて見ることも有意義でありましょう。
今日、電気通信とその応用の恩恵に浸れる裏には、過去にはコンピュータやレーダ等、戦争の道具としての発明がその後の発達を促進した事実があったにせよ、ベルリンの壁の崩壊が電波の越境性から作用した事実も改めて思い起こす必要がありましょう。
新しい世紀の出発に際しては、電気通信技術の進展やその応用メディア開発が、二度と再び全人類にとって不幸な動機から促進されることのないこと、もっぱら人類の幸福のために、また有意義な目的のために開発され利用されることを、ひたすら祈る気持ちで一杯です。
以上
2000/01/01 宇多 弘