古典も超3も超えて

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最近あらぬ方向へ走り出しています。今までのわが家のフラッグシップ・アンプはOPTにタムラのアモルファストランスを配した227−227−245のオール茄子管シングルアンプ=武蔵でした。これが重くて高価なために門外不出だったので突撃用の全権代理としてこさえたのが6BM8超3の剣でした。欲張った設計で重量過多のため出番はそれほどなかったけど。

武蔵はBGを大量に突っ込んだり、ショートカットコンを入れたりとけっこうドーピングして古典な「直3アンプ」とはかなり違った音になっていると思います。力強さと繊細さがうまくバランスしてこの2年間満足しておりました。音の立ち上がり・余韻とも水準以上のアンプです。なんてったって音の良さでは随一の45を使ってますからねえ。ずっとこのアンプを旗艦とするつもりでスペア球だって私が死ぬまでは大丈夫なくらい買い込んだほどです。

剣は巨大ケミコンを投入して、繊細さでは武蔵に遠く及ばないまでも力感では斧で砕くような快感がありました。特性を測って唖然としましたが。でも武蔵の代理は十分務めてくれたと思います。

今回の路線変更のきっかけはMCヘッドアンプでした。昇圧トランスの他にヘッドアンプも、という軽い気持ちで乾電池駆動の金田式MCヘッドアンプを作ってその音を聴いてびっくり仰天。

音を聴いての感想は一言で云うと「金田さんって、耳が良いのねえ」です。ポジティブ志向というか中身がぎっしり詰まった躍動感のある浸透性の高いダイナミックでエネルギッシュな音です。優れた音とはどんなものか、の確固たるイメージがないとこんなアンプは設計できないでしょう。MCカートリッジの音が一変してしまいました。

金田式は作るのが難しいという印象が広く浸透しているようですが、なに、乾電池式ならプラモデルの感覚で簡単に作れます。そんなヘッドアンプでこんなに音が変わるとは、期待以上でした。これだからオーディオはやめられません。で、もう1台作ることにしました。今度は乾電池駆動のパワーアンプを。

そうしてできたのが球(WE403A=6AK5)の2段直結+石のダーリントンエミフォロSEPPのハイブリッドDCアンプです。2段目の6AK5のRpとプレートの間にSEPPのバイアス回路が入る格好です。2段目の6AK5のEpとほぼ同じ電位をB電源からタップで引き出し、これをSP端子の−側に接続して段間にCが全くないDCアンプができました。カップリングCのみならず、カソードパスコンもデカップリングCも一切つけていません。コンデンサーは位相補正の39pFとヒーター定電圧回路のタンタルコンだけです。

さらにDCアンプ特有のDCオフセット対策に球のB電源を安定化し、2段目に金田さん考案のATR(オートトラックレギュレーター)をつけ加えました。このATRとはパラレルレギュレーターの一種でカソード電位を自動調節することで球のEpを任意の電圧に固定するものです。使ってみるとこんな便利なものはありません。プレート電流を高精度でコントロールすることができます。現在のDCオフセットは球のシングル2段増幅にもかかわらず±20mV程度に収まっています。

さて、肝心の音の方は・・・音の傾向は先のヘッドアンプにとてもよく似ています。圧倒的な音楽情報量とでも云いましょうか。すべての音が躍動しています。もっと分析的に云うと立ち上がり・余韻とも武蔵や剣とは次元の異なる音です。今まで作ったアンプがおもちゃに思えてきて困ります。音の頭も尻尾もちゃんと聴こえます。今までも聴こえてると思っていたのですがそうじゃなかったんですね、これが。それにハイブリッドですがおもしろいことに球の音がします。

結果として現在の私はOPTに対して相当に懐疑的になっております。なにも高いトランス買ってまでアンプ作ることないんじゃないか、ましてや安いトランスを使うなんて、むにゃむにゃむにゃ、と。OPTと出力管の役目は安い石がそれ以上のパフォーマンスで果たしてくれます。

今回の金田式アンプ製作は私に貴重な経験をさせてくれました。自分がしがみついてきた音がなんだか独りよがりな気がしてきて視界が大きく拓けてきた感じです。当分この路線でいくと思います。自分でアンプを設計するには耳の良さが絶対条件なんですね。金田式アンプで一番感じたのはそういった観点からの強い説得力です。やっぱり生録やってる人の耳にはどうしてもかなわないんでしょうね。

ヘッドアンプもハイブリッドアンプも金田さんの製作記事を見ながら作りましたが、的確な記述で高い再現性を持った製作記であるなあと感心しました。みなさんも金田さんの力を借りてブレークスルーしてみませんか。

Rudy こと 小林龍司
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