村嶋さん追悼視聴会

2014年7月27日 9:00-16:00

手づくりアンプの会関西支部を長年、 引っ張ってきた村嶋茂さんが病により亡くなってからほぼ5カ月。
2014年7月27日、神戸市灘区の鶴甲会館で村嶋さんをしのぶアンプ発表会が開かれた。 参加したのは村嶋さんをよく知るアンプの会のメンバー17人。
会場にはNskさんが用意した、村嶋さんの遺影が飾られた。 全員で突然の死を悼むとともに遺徳を偲びながら、各人それぞれに、 持ち込んだアンプに灯を入れて音出しし聴き合った。
同時に故人との関係や、アンプづくりを熱心に教わった思い出など次々に語り合った。 以下、発表会のもようをInuがまとめた。

トップバッターはInu。
持ち込んだのは、ヴィンテージ管・英マルコーニのPX-25を終段に起用したシングルアンプ左右2台。 会場から「(そんな高価な球アンプ)どこに隠しとった」との声も出ていたが、 実のところ荒ゴミで放出される寸前に義父宅から回収してきたものだ。
昨年暮れ、東京真空管商会の店長・大眉さんは北欧の小型三極管RC-5Bでアンプを作ってみては、 とみんなに勧めていた。
ことし1月になってその球を4本、真っ先に購入したのが村嶋さんだった。 そして「Inuさんもどうですか」と勧められたのだ。 師の教えには従わざるを得まい、とばかりに4本買い求めパラシングルで使うべしと設計を終えたころ、 村嶋さんの訃報に接した。おなじ頃に荒ゴミを入手、 捨てるのはもったいないので完全レストアした。
「つまり、出展アンプと村嶋さんとはあまり関係ございません。 RC-5Bアンプの発表は次回にします」。
PX-25アンプ、前段はMH4、終段とはCR結合で無帰還。 出て来た音に会場の反応は鈍かったが、天国の村嶋さんの耳を十分に和ませたはずだ。

ほぼ毎回、アンプの会に試聴用スピーカーを持ち込んでくれているのはOotさん。 今回も厚さ20mm、ブナ集成材による小型の素晴らしいスピーカーを披露してくれた。
村嶋さんとの関係について 「(村嶋さんのアンプづくりのコンセプトのひとつは)出来るだけ小さいアンプ、 部品点数も少ない、というのが主張だったように思う。 それと、人のやっていないことをやるというのも?。 同じコンセプトで作ってみたのがこのスピーカーだ」と紹介。
ネットワークなどMekさんの協力を得ながら3年がかりで作り上げた。 18Lの容積に入るトゥイーターはブラジル製。安くて構造良くて音も良い。
ウーハーはイタリアB&Cの6インチ半、6NDL38(8オーム)、音圧レベルは92dB クロスオーバーは1キロヘルツで、上は18キロヘルツでカット、下は6dbでカットし、 ほぼフラットにつながっているという。
また、スタンドもブナ集成材で加工している。

Kjmさんは、生前の村嶋さんと互いにアンプ製作の約束をしていた。
Kjmさんが約束したアンプは、この日発表の真空管12EH5とFETを組み合わせた ハイブリッド・プッシュプルアンプ。アンプ前段の真空管のヒーターを 出力段FETソースフォロアーの負荷抵抗としたユニークなものだ。
「本当に残念でならない。村嶋さんにこのアンプの音をぜひとも聴いてほしかった」。
もともとKjmさんは、海外サイトのヘッドフォンアンプ回路をヒントにスピーカー駆動できる アンプができないか、実験を続けていた。 そこそこ実用になる、真空管とFETハイブリッドシングルアンプが完成したので、 Nskさん主催の「醍醐LPレコードコンサート」で発表したところ、 村嶋さんからたいそう興味を持たれた。
このとき、Kjmさんはこのシングルアンプのプッシュプル化を約束、 村嶋さんはシングルアンプを直ちに追試したあと、 例のユニークな電球アンプへと発展させた経緯がある。
「村嶋流のユニークアンプにはほとほと感心、随分感化もされた。 彼のペットボトルスピーカーを聴かせてもらう約束もあったのに・・・」と言葉を継いでいた。

続くはDiさんのトランジスターアンプ。
SEPP出力段に2SA1358と2SC3421を起用、19本ずつパラレルにしている。 これに電源ユニットや保護回路基板などを組み込んでかなり大型の構造となっている。
「アンプ製作は2006年から、村嶋さんに触発、励まされてずっと取り組んで来た。 いつものトランジスターアンプでこれが5作目だが、 ここ2年ぐらいずっとノイズに悩んできた・・・」とDiさん。
CDをリッピングしたWAVファイルをUSB-DACにつないでアンプを駆動、 出て来た音に心配したノイズはまったくなく、 アンプは天国の村嶋さんも必ずやほくそ笑むであろうという仕上がりとなっていた。

最近、関東から関西に帰還(正帰還か負帰還かは知らない)したHroさんは、 自作のスピーカーとUSB-DACを引っさげて参加した。
まさに「手づくりの会」の人そのものを会場で具現した。
「関東のみなさんはよく、なんやかんや自作する」 「確か、村嶋さんの方針だと思うが、アンプにシールをはめる、 自分のロゴを入れるということを自分もやって持ってきた」と紹介。 USB-DACについてはPCM-2704を使い、5系統の電源を強化したつくりにした。
また、スピーカーは関東の会員設計のダブルバスレフ型キットを製作し持ち込んだ。 好きなアニメソングを鳴らそうとしたが、メインアンプがない。
すかさず、Ookさんが持参したトランジスターアンプを差し出し、無事に試聴となった。
Ookさんのトランジスターアンプ、ネットオークションで200円で買ったトリオのKA-60。 送料が1800円なので計2000円かかった。
回路方式が面白く、完全レストアしたものという。

Nskさんの発表は、今は亡き村嶋さんを慰めるのに十分すぎる配慮で行なわれた。
台に並べられたアンプ群の多くは村嶋式の自作低電圧真空管アンプ。 用いた真空管は小型管から順に5J6、CV4048、832、815で、出力は250mWや0.5Wなどと小さいが、 高能率スピーカーにつないで聴く限り十分な出力だ。
これらに船舶無線用送信管3P41(JRC製)を使った、出力最大12Wのシングルアンプを加えた。 さらに、これらのアンプを「村嶋式巻きダンボールスピーカー」で聴くという趣向となった。
ダンボールはホームセンターで@980円で仕入れ、低音ユニットは息子さんの車から外したもの、 高音はパソコン用の安いスピーカーを上に重ねている。
最初に815アンプをダンボールで鳴らしてみた。 クラッシックのオルガン曲で、Nskさんは 「小出力のため、やや苦しい。村嶋さんも天国で苦笑しているのではないか」としたが、 会場いっぱいに広がるムラシマ・サウンドに参加者全員、興奮止まなかった。 発表の最後に本命の3P41アンプをきちんと鳴らしきって、締めくくった。

Mgmさんは出力管にダイナミックカップル管25N6Gを用いたアンプを発表した。
「2009年に草津市の道灌蔵で開かれた手づくりの会の試聴会でデビューした。 そのころの関西の空気は、村嶋さんを中心にOTLアンプでないといけないような感じだったが、 わたしはダイナミックカップルに興味を持ち、ずっと取り組んでいる」と自己紹介すると 同時に村嶋さんの思い出を語った。
アンプの説明では、ダイナミックカップル管で有名な6AC5-GTは、前段で76を使うよう指定されているが、 25N6Gは複合管となっており、使いやすい。アメリカのラジオに使われたらしく、 ヒーターは25V、300mA、トランスレス用だ。
前段を15DQ8の三極部にしているので、合計80Vとなり、20Vは抵抗を使ってドロップしているとした。 出て来た音についてMgmさん本人は「サザン・オール・スターなんだが、違って聴こえる」とするものの、 会場では至って肯定的な印象を与えていた。

Sguさんは村嶋さんの思い出に浸ろうと、 前段6SL7、出力管2A3のロフチンホワイトシングルアンプを引っ提げて登場した。
「村嶋さんとの出会いはもう10年になろうか。若いころキット製作ばかりしていたが、 自作の楽しさを教えられ作ったのがこのアンプ。
ノイズ対策ではとりわけお世話になった」。 Dellのパソコンをうまくシャーシーとして再利用している。
同時にSguさん、アルテックのA7風スピーカーも披露してくれた。 アルテック409-8Eをウーハーとして、高い方はエレクトロボイス405-8Hに受け持たせる構成で、 ネットワークなしでつないでいる。
思い出深い関西初のお寺大会での、ご住職による「千の風」演奏のライブ録音などを再生し、 雰囲気を盛り上げた。

Tbtさん持参のアンプは、6922-三結EL34全段差動プッシュプル(無帰還)。
前年5月26日に同じ鶴甲会館で開かれたアンプの会で初披露したとき、 村嶋さんからいろいろコメントしてもらったという。
それで、1年掛かりでとくに前段で2点ばかりの改良を加えて参加した。 この他の特徴は初段、終段、マイナス電源の左右計6系統の電源回路に それぞれ独立して低インピーダンスのTrリップルフィルターを入れていること。 また、銅板を使って完全一点アース接続にもしている。
バッハの有名なオルガン曲、トッカータとフーガの試聴では、定位の良さと品のいい低音が際立っていた。

Sotさんの発表は思い出話から始まった。
「村嶋さん、最初に会ったときは眼光の鋭さにドキッとさせられた。 しかし、話してみるとそうでもなく、いやはや面倒見の良さにびっくりだった。 眼からは慈悲の光が出ていたのではないだろうか、個人的に教わったことも多かった」。
披露したのは自ら得意とするCSPPアンプ。終段は2A3のヒーターを6.3Vにした直熱3極管6A5G、 これを交流点火、チョークドライブとしている。
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」に続いてMekさんお薦めのCDをかけた。
ジェニファー・ウォーンズの「ザ・ハンター」の8曲目、 この曲が我が意を得たりとばかり、よく鳴っていた。

Murさんも村嶋さんの回想から発表が始まった。
「長いことOTLアンプを作ってきたが、村嶋さんはずっと最良のお師匠さんだった。 竹末数馬の著作を勉強しなさいと教えられたのが忘れられない」 「なぜ、OTLかといえば、聴いた瞬間にアンプはこれでなきゃと思ったからだ」-として、 前段に6AU6を、出力にロシアの大型管6C33CBを右と左に2本ずつ配したアンプを紹介。
このアンプ、筐体は凝りまくっていて、黒檀の板からそろばん玉をくり抜いたあとの廃材を 天板の一部にしている。
別筐体の電源部は古民家から出た屋久杉を加工して前面パネルにしている。 灯を入れ温もってくると、樹脂が適度に蒸発していいにおいがし、音色と香りで心地よさを誘う、 巧妙さだ。
鬼太鼓座の太鼓のCDの再生では、時間的に香りが出るまでにはならなかったが、 音色というよりも音圧を感じるOTLらしい鳴り方をしていた。

続くWtさんは「アンプ出展の替わりに勝手ながら、村嶋さんをしのぶ曲ばかり10曲ほど集めた」として、 自作コピーの音楽CDを参加者全員に配ってくれた。
配りながら「村嶋さんとの出会いはおよそ4年前。 アンプに関する知識の深さは想像を絶するほどで、そうそう・・・」 「当時、あるオーディオ雑誌に球1本が100万円だったか、アンプ1台が100万円だったか、 とてつもない高価なオーディオ装置について記載があり、 バカヤローと思いながら、村嶋さんにその話をした。そしたら・・・」 「翌週の例会かに村嶋さんが『バカヤローアンプ(に似ているの)はこれや』といって、 300Bを起用した手のひらに乗るほどの小さいアンプを持って来て聴かせてくれたんです。いやはや・・・」 「ン百万円のアンプも1万円ほどのアンプもたいして 変わらないということを教えてくれたように思います」 ーと懐かしむことしきりだった。

「6、7年前から、村嶋さんにはお世話になってきた。それ以前はアンプ作り、 ド素人だったわたしがここまで来れたのは、村嶋さん居ればこそだったのに・・・」とIttさん。
最初は村嶋さんのホームページ(ブログ)を見ながら教わった。 そのうちに6FQ7を終段にしたCSPPアンプを聴かせてくれ、 さらにもっと小さくしたCSPPアンプを回路図、結線図付きで送ってくれたという。
出展したアンプは、安く手に入れたという6J5を左右2本ずつ使っている。
また、村嶋さんも好んで使った山水のトランスST-48も使用。「一番、縁深いアンプなので・・・」 といいながら取り上げたCDの曲は文部省唱歌「仰げば尊し」。
この曲の歌詞「仰げば尊し 我が師の恩 教えの庭にも はや幾年(いくとせ)・・・」はIttさんの、 師を失った悲しみの心境そのものだった。

Sgmさん持参アンプは、全段直熱三極管構成のAaーEdシングルステレオ。
10年がかりで取り組み最近完成、各部品の品質にはとことんこだわった。 Edなど真空管はドイツ製のヴィンテージ管。高圧フィルムコンを多く使い、 アウトプットはU-808、XE-20、X-2.7など順に積み替えて追い込んでいき、 最終的に重さは30kgとなったという。
村嶋さんとの関係について「付き合い始めて15年ぐらい、高校入学当時かな、 300Bシングルアンプで初段からハムを引き、困っていたところ、 直流点火したら直ると教えてもらったのがつい昨日のように思える」。
なぜEdシングルか。「以前、関東のあるオーディオクラブ発表会に行ったら、 金にあかせたアンプが多かった。すごいですねといったら、 『お前のような若僧には、20年早い』といわれた。クソーっと見返してやったのがこれ」という。
試聴したジャズヴォーカル、ヘレン・メリルの「Don't ExPlain」は静かでしかも力強く聴こえ、 見返しは大成功!?。

Ookさんの発表はスピーカー。
アンプも持ち寄ったが、メーカー製を改造、修理しているとして単独での発表を遠慮し、 Hroさんの発表に合わせて先に試聴されている。
スピーカーも自作でないからと発表を渋っていたが、参加者に促された。 「村嶋さんとは、昨年5月に初めて会って以来となる。最近、スランプに陥っていて、 しのぶ会でパワーをもらえれば・・・」。
Ookさんの説明では、スピーカーのメーカーはいまはないアメリカのADS、 東日本大震災で被災したのを承知でオークションで安く手に入れた。 ウーハーは断線しコーン紙も破れていたが、いいところまで修理できた。
実際にきちんと鳴った。「ここまで修理できたのなら、自作と同じだ」と会場から励ましの声が飛んでいた。

「村嶋さんとは、実をいうと(アンプづくりのコンセプト?が多少異なり) あまり濃い付き合いではなかった。 それで、手づくりの会の会員になったのもみなさんより遅かった」と振り返るのはMekさん。
しかし、この日のしのぶ会開催を熱心に説いた人たちにはMekさんも含まれたから、 まったくふたりのソリが合わなかったわけではないだろう。
ともかく、出展作は6CA10島田式クロスシャントプッシュプル(CSPP)アンプ。
Mekさんによると、50年以上前にラジオ技術誌に発表された回路(島田式)を このアンプでリニューアルした。 狭義のCSPPとされ、マッキントッシュタイプがPPの上下球のプレートと カソードをバイファイラー巻きによって結合しているのに対して 島田式は電解コンデンサーで結合している。
電解コンデンサーはフローティング電源の機能を持つため、 実際のフローティング電源に置き換えると、それはサークロトロンになるそうだ。 面白いアンプなのに、聴く段階になってアンプ入力がキャノンコネクターになっていて、 不平衡から平衡に変換するアダプターがないことがわかり、再生はお預けとなってしまった。

最後に自己紹介に立ったのは、広島から駆けつけたMkiさん。
持ち込み作品はなくトークだけとなった。「仕事で大阪に通うようになって、 東京真空管商会という面白い店にたどりついた。 キットアンプの球の差し替えをする目的だったが、村嶋さんと出会って、 自分の世界が狭いことに気づかされた」 「村嶋さんの、あの超小型のアンプはなんですか、車でいえば、 油をまき散らして走る大型アメ車に対して、まさに小型ホンダ車だ」 「211を使って、プレートに1000Vをかけるアンプを勧められているが、 これからも村嶋さんに恥じないよう頑張りまーす」。
村嶋 茂さん、安らかに 仲間集まりアンプ発表会、追悼
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